本記事ではインドネシアの人事・労務に関する「よくあるトラブル事例」のうち、「労働組合」に関する事例を紹介します。
インドネシアでは労使問題が大きなトラブルに発展する場合、労働組合が深く関与するケースが多いです。
日本と比較すると、インドネシアでは労働組合が会社に対して強い影響力を持っているため、
以下で、労働組合に関するトラブル事例を詳しく紹介します。
日本とインドネシアの「労務関連法規の違い」や「雇用・給与に関するトラブル事例」については、下記記事で紹介しています。あわせてご確認ください。
1. 「労働組合」に関するトラブル事例
「労働組合」に関するトラブルの事例を紹介します。
トラブル事例 | 内容 | |
---|---|---|
1 | 労働組合を社内に立ち上げられた | 従業員が社内に労働組合を立ち上げ、雇用条件等を交渉されるようになった。 |
2 | 組合活動のため従業員が頻繁に早退や欠席をする | 組合活動のために従業員が頻繁に早退や欠席を繰り返し、業務に支障をきたすようなケースが発生した。 |
3 | 組合活動を円滑に行うための支援を求められた | 組合活動を行うために、会議室や備品の使用、交通費などの提供を求められた。 |
4 | 組合費徴収の協力を依頼された | 組合幹部が組合員に対して組合費の徴収を行うのは手間や労力が大きいため、給与天引きを会社側に依頼された。 |
5 | 組合の上層団体が会社内に侵入して活動を行った | 従業員に対して活動への参加を強要する、組合の主張を押し付けるなどの行為が行われることがあります。 |
それぞれについて解説します。
1-1. 「労働組合を社内に立ち上げられた」事例
トラブル内容
- 従業員が社内に労働組合を設立して、組合活動を開始された。
インドネシアでは10名以上の労働者が加入することにより、労働組合を結成することができます。
労働組合が結成されると、組合員が会社の政策や条件に対する不満を集約し、会社側と交渉を行うケースが増えてきます。
対応策
組合の立ち上げを禁止するのは「組合活動の妨害」にあたり、法令違反になります。
法律に基づいた適切な手続きを踏み、組合の存在を受け入れなければなりません。
労働組合とのコミュニケーションチャネルを確立して定期的な話し合いの場を設けましょう。
組合側の意見を真摯に聞き入れて可能な範囲で改善策を講じることができれば、良好な関係性が築けます。
また、組合対策として会社側に協力的な「御用組合」を設立するという方法もあります。
インドネシアでは一人の従業員が複数の組合に所属できないため、御用組合を通じて従業員を取り込むことは有効な手段の一つです。
1-2.「組合活動のため従業員が頻繁に早退や欠席をする」事例
トラブル内容
- 組合活動のために従業員が頻繁に早退や欠席をするようになり、日常業務に支障をきたす事態が発生している。
インドネシアでは労働法により、「事業者は組合活動を妨げてはならない」と定められています。
したがって、従業員が組合活動に参加するために早退や欠席することは合法的に認められる場合があります。
しかし、頻繁に早退や欠席が続くと通常の業務に支障をきたし、他の従業員に過度な負担がかかるだけでなく、不満が蓄積する恐れがあります。
対応策
必要に応じて代替要員の確保や業務分担の見直しを行うなどの対策をしながら、組合と協議して組合活動のスケジュールを業務時間外に設定するよう提案しましょう。
また、就業規則において組合活動に関する規定を制定して、業務に支障が出ないよう明記しておくことが重要です。
組合活動に関する規定を就業規則(もしくは労働協約)に記載しておくと、以下のようなメリットがあります
- 会社側は組合活動を実施することを容認する体裁がとれる
- 組合活動が業務に支障がでないような体制が作れる
- 万が一、トラブルが発生した際、問題解決に向けた指針となる
会社と組合の間で透明性のあるルールを共有し、従業員全体の公平性を保ちながら円滑な業務運営が可能となります。
1-3.「組合活動を円滑に行うための支援を求められた」事例
トラブル内容
- 組合活動のために、会議室などの会社設備や備品の利用や交通費などの金銭的な支援を要求された。
組合活動を円滑に進めるために、会社の会議室や備品の利用を求められるケースがあります。
また、組合側が活動に伴う交通費や雑費の金銭的な支援を依頼してくることも少なくありません。
上記のような要求に対しては、会社として対応方針を明確にする必要があります。
対応策
基本的に組合活動を行うために会社設備や備品の利用を許可したり、金銭的な負担を負ったりする義務は会社側にはありません。
しかし、組合との良好的な関係性を維持するために、会社のリソースを考慮した上で提供可能な範囲での支援を行うことも有効な組合対策の一つです。
ただし、組合に対して会社の施設や備品の提供、または金銭的な支援を行う場合は、予算内で対応できるように組合と協議を行い、明確なガイドラインを設定することが重要です。
また、上記のような対応策を講じる際には、他の従業員に対する公平性や透明性を保つことが求められます。
組合に対して過度な優遇が行われないよう、会社全体の秩序や運営方針に合った形で支援を行うことが望ましいです。
1-4.「組合費徴収の協力を依頼された」事例
トラブル内容
- 組合費の徴収に関して、給与天引きしてもらうように会社側に依頼された。
組合幹部が組合費の徴収をするには手間や労力を伴うため、会社に対して給与天引きでの徴収を依頼してくるケースが見られます。
給与天引きにすることで徴収が確実になり組合側の負担が軽減されますが、会社側には対応の可否や、その影響について慎重な判断が求められます。
対応策
法令上、組合費の徴収は会社の義務になっていないため、受け入れる必要はありません。
ただし、会社側が組合費徴収における給与天引きに協力した場合は、「組合員の人数」や「組合資金の把握ができる」メリットがあります。
一方、「税務処理が必要になる」、「組合の面倒事に巻き込まれる可能性がある」などのデメリットもあります。
協力するかどうかはメリットとデメリットを踏まえて判断するとよいでしょう。
1-5.「組合の上層団体が会社内に侵入して活動を行った」事例
トラブル内容
- 外部の組合団体が従業員に対してデモへの参加を強要したり、組合の主張を無理に押し付けたりするなどの行為が発生した。
大規模なデモが計画される際、組合の上層団体が会社の敷地や施設内に侵入し、従業員に対してデモへの参加を強要したり、組合の主張を広めたりする活動が行われるケースがあります。
業務に支障が出るだけでなく、「従業員の安全が脅かされる」「精神的な負担を感じさせる」状況が生まれるため、事前に対策を講じることが重要です。
対応策
まずは実施するデモが就業規則(もしくは労働協約)に従って適切にデモの実施手順を踏んでいるか確認します。
仮に適切なデモの手順を踏んでいなかった場合、該当組合員に対して制裁罰則を実施できる可能性があります。
大規模なデモ情報は常に収集しておき、リスク管理計画をしっかりと策定することが重要です。
デモの規模や内容を把握することで、どの程度の影響が予想されるかを見極められます。
また、従業員の安全を最優先に考えて、適切な対応策を講じる必要があるでしょう。
例えば、会社の敷地や施設の警備体制を強化し、警察や専門の警備業者と連携して対応することをおすすめします。
さらに従業員に対して事前に注意喚起を行い、必要に応じて従業員の避難や一時的な業務停止などの対応計画を準備しておくとよいでしょう。
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