本記事はインドネシア進出で「ノミニー(名義貸し)」の利用を検討している方向けに、「ノミニーのリスク」や「リスクを軽減させるコツ」についてできる限りわかりやすく解説しているので、ノミニーを利用すべきかどうかを判断することができます。
なお、インドネシアで「内資法人を設立する手順」については下記記事で詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
1. ノミニー(名義貸し)とは
ノミニー(Nominee)とは、
インドネシア国内に内資法人を設立できない外国人や外国企業が、インドネシア人の名義を借りて法人を設立し、実質的な所有権や経営権を外国人・外国企業が保有する手法を指します。
1-1.外国企業がノミニーを利用する理由
外国企業がインドネシア市場へ進出する際にノミニーを利用する理由は、主に以下の4つです。
ノミニーが利用される理由
- 進出コストを抑えられる
- 外資規制を受けず、柔軟にビジネス展開できる
- 間接的な資産保有が可能
- 情報を秘匿できる
それぞれについて解説します。
〈理由1〉進出コストを抑えられる
インドネシアの法律上、外国企業は内資法人を直接設立できません。
そのため、インドネシア人の名義を借りて内資法人を設立することで、外資法人の設立に必要な資本金を大幅に軽減することが可能です。
通常、外資法人を設立するには最低100億ルピア(約9,000万円)の資本金が必要になりますが、ノミニーを活用した内資法人であれば、約5,000万ルピア(約45万円)程度で設立することができます。
〈理由2〉外資規制を受けず、柔軟にビジネス展開できる
インドネシアでは特定の業種に外資規制が設けられており、外国企業がすべての分野で自由にビジネスを展開することはできません。
例えば、小売業や公共事業などでは外資の参入が制限されています。
しかし、ノミニーを活用して「インドネシア人が経営する法人」という体裁を取ることで、外資規制を回避することが可能です。
現地の法律や規制に適応しやすくなり、外国企業はインドネシア市場でより柔軟かつ効率的にビジネスを展開できるようになります。
〈理由3〉間接的な資産保有が可能
ノミニーを利用することで、外国人でも間接的に資産を保有することが可能になります。
特に、インドネシアの土地や不動産のように外国人が直接所有できない資産を、ノミニーを通じて実質的に管理できる点は大きな利点となり、ビジネスや投資の可能性を大きく広げます。
〈理由4〉情報を秘匿できる
ノミニーを利用することで、実際の所有者の名前や個人情報が公的な記録に残らず、インドネシアでのビジネスが可能となります。
外部からの監視や干渉を避けることができ、競合企業に対して自社の存在を隠しながらビジネスを進めることも可能です。
また、ビジネス戦略や資本構成を秘密にすることで、競争相手からの不当な競争や情報漏洩のリスクを軽減する効果も期待できます。
1-2.ノミニーを取り巻く環境の変化
メリットの大きいノミニーを利用した内資法人の設立ですが、現状インドネシアでは以下のような対策がとられています。
1-2-1.ノミニーは原則禁止
投資法(2007年第25号)によって、ノミニーを利用した会社設立は明確に禁止されました。
しかし、実際にはノミニーを活用した会社設立が行われており、政府や警察がすべての事例を取り締まることが難しいため、依然として広く利用されているのが現状です。
1-2-2.ノミニーの取り締まり強化
ノミニーを利用する際のリスクは年々高まっています。
ノミニーに対する取り締まりが強化されており、BKPM(インドネシア投資調整庁)は2017年第13号規則で「名義株主ではないことを証明する陳述書の作成・提出」を義務付けました。
仮にノミニー契約が発覚した場合は、ノミニー契約が無効となり、間接的な経営権を失う可能性があります。
ただし、現在のところ、ノミニーの利用に対して刑事罰を科す法律はまだ整備されていません。
なお、「INDONESIA WORKS」ではノミニーの現状について現地インドネシアの最新情報をお伝えしています。
ノミニーの利用について「現地の温度感」や「他企業の動向」について把握したい方は、ぜひお問い合わせください。
2.ノミニー(名義貸し)を利用する6つのリスク
現在、インドネシアではノミニーを利用した内資法人の設立は原則として禁止されています。
そのため、禁止されているノミニーを活用して会社を設立する場合、以下のようなリスクを伴います。
〈リスク1〉法人が法的に認められない
まず大前提として、ノミニー契約は非合法とされています。
インドネシアの法律では名義貸し行為は無効と見なされ、ノミニーを通じて設立された法人は法的に認められない可能性が高いです。
仮に設立した法人が違法と判断された場合、投資や事業が法的保護を受けられなくなるリスクがあります。
〈リスク2〉紛争時に法的対応が困難になる
インドネシアの法律ではノミニーが法的に認められていないため、たとえ契約書が存在していても、その契約が法的拘束力を持たない可能性があります。
ノミニーを利用している企業が紛争に直面した場合、法廷で正当性を主張することが極めて困難となり、法的救済を求めることも難しいでしょう。
〈リスク3〉名義者に乗っ取られる危険性がある
ノミニーの最大のリスクは、名義者が「法律上」かつ「名義上」の株主として正式な権利を持つことです。
例えば、以下のような事態が発生した場合、会社を守る手段がありません。
- 名義者が死亡した場合、資産相続者に株式資産として引き継がれてしまう
- 離婚で名義者夫婦の共有財産とみなされて分配される場合
- 名義者が指示を無視して暴走しはじめた場合
特に、名義者は株主として経営に関する重要な決定を行う権利を持つため、たとえ間接的に会社を経営していたとしても、名義者に会社を乗っ取られ、会社に対する権利を失う危険性があります。
〈リスク4〉税務および財務リスクがある
ノミニーを利用すると、税務や財務面でさまざまなリスクが発生します。
ノミニーを利用している企業は、税務調査の対象となるリスクが高く、税務当局から申告内容や取引を疑われる可能性が高いです。
不適切な申告や利益操作が指摘されると、重い罰金や法的処分を受けるリスクがあり、企業の財務に大きなダメージを与える恐れがあります。
また、外国企業は間接的な経営となるため、資金を自由に管理できず、企業運営に支障をきたす場合があります。
〈リスク5〉企業イメージが悪化する
ノミニーを利用する企業は「透明性の欠如や法令遵守が不十分である」と疑われ、顧客や投資家、ビジネスパートナーからの信頼を失うリスクがあります。
特に、企業の社会的責任が重視される現代では、違法なノミニーの利用が企業の倫理観に対する疑念を招き、企業イメージを大きく損なう原因となるでしょう。
その結果、消費者からの支持を失い、売上や市場シェアの減少につながる可能性があります。
〈リスク6〉規制強化によっては摘発される
インドネシアの投資規制や法律は頻繁に変更されます。
現時点では、ノミニーを利用して設立された内資法人に直接的な刑事罰等はありませんが、将来的に規制が強化される可能性が高いです。
規制内容によっては、ノミニー契約を利用した事業者が摘発されるリスクがある点に留意しましょう。
「INDONESIA WORKS」ではノミニー利用に関するご相談を受け付けています。
上記のリスクを踏まえたうえで、なお利用を検討している場合はぜひ一度ご相談ください。
「現地の温度感」や「最新情報」をお伝えできるので、より深い情報をもとに検討を進めることができます。
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3.ノミニー(名義貸し)利用のリスクを軽減するコツ3選
ノミニーを利用しての内資法人設立には、多くのリスクが伴います。
リスクを十分に理解した上でノミニーの利用を検討する際には、以下の3つの対策を講じることで、リスクを軽減することができるでしょう。
3-1.信頼できるノミニーを選定する
ノミニーを利用する際には、信頼できるノミニーを慎重に選ぶことが非常に重要です。
候補者の経歴を確認し、過去の実績や信頼性を十分に評価する必要があります。
ビジネス経験や他の外国企業との取引履歴を調査することで、ノミニー候補者が信頼できるかどうかを判断することができます。
また、信頼できる法律事務所やビジネスコンサルタントに依頼して、ノミニー選定のプロセスをサポートしてもらうのも効果的です。
専門家の助言を活用することで、よりリスクを軽減した選択が可能となります。
3-2.明確な契約を結ぶ
ノミニーとの契約は、権利や義務を明確にするために詳細に作成することが重要です。
契約内容には、ノミニーの役割や報酬、解約条件などをしっかりと記載します。
また、名義者との契約を公証人の立会いのもとで作成するとよいでしょう。
ただし、ノミニー契約は無効とされる可能性が高く、あくまでリスクを軽減するためのコツです。
ノミニー利用のリスクを完全にゼロにすることはできません。
3-3.ノミニー利用以外の方法も十分に検討する
ノミニーのリスクを最大限に減らすには、内資法人を設立する前に「ノミニーを利用せずに進出できる他の方法がないか」を十分に検討することです。
例えば、インドネシア国内に外資法人を設立すれば、外資規制の範囲内で合法的に事業を行うことができます。
年々規制が緩和されはじめ、外国資本が参入できる業種が増えてきています。
また、費用を抑えて小規模から始めたい場合は、「雇用代行サービス」を利用する方法もあります。
雇用代行サービスを使えば、現地に会社を設立しなくてもビジネスを展開でき、法律に違反する心配もありません。
インドネシアの進出方法については下記記事で詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
4.ノミニー(名義貸し)を利用すべきかどうか
ノミニーを利用することは、高い「法的リスク」と「経営リスク」を伴うため、慎重な判断が必要です。
特に、長期的に安定した事業運営を目指す場合、外資法人の設立やその他の合法的な手段を選択する方が安全です。
それでもなお、ノミニーの利用を検討する場合には、必ず「専門家の助言を受けること」を強くお勧めします。
「INDONESIA WORKS」では、ノミニー利用に関するご相談をはじめ、貴社の状況に応じた最適なインドネシア進出方法をご提案しております。
初めから「◯◯の形でインドネシアに進出する」と決めつけるのではなく、インドネシア進出の専門家に相談することで、より「最適な進出方法」を見つけられる可能性が高まります。
どうぞお気軽にご相談ください。
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